9月8日に開幕したラグビーワールドカップ2023フランス大会。これまでのラグビー史を塗り替えるような壮絶な試合が繰り広げられ、世界中のラグビーファンを熱狂の渦に巻き込みました。
日本代表は惜しくも決勝トーナメント進出を果たすことはできませんでしたが」、同プールから準決勝に進出したイングランド、アルゼンチンに接戦を繰り広げ、日本列島のラグビー熱も一気に高まりました。今回はこのラグビーワールドカップを題材として、チームを勝利へと変化させるリーダーシップについて考えていきたいと思います。
勝つための必要条件の一つとなる「変化」の要素
まず、ラグビーというスポーツの性質から整理しましょう。
ラグビーはフィジカルコンタクトを伴うスポーツであることから、戦略、戦術、技術もさることながら、そもそも保有している自力(能力)が勝敗に直結します。よって、番狂わせの少ない性質を持つスポーツとなるのです。そのような前提もあり2015年のワールドカップで日本代表が南アフリカ代表を破った試合は「ブライトン(その試合がおこなわれたイングランドの地名)の奇跡」と呼ばれ、ラグビーだけでなく、スポーツの歴史上最大の番狂わせとして世界を震撼させました。それほど、事前データと試合結果の連動性が高いのです。
そのことは過去8回までのワールドカップ優勝国の優勝までのプロセスがまたそれを示しています。第8回(2015年)までの優勝国は大会期間でプール戦(4試合)から決勝トーナメント3試合の計7試合、優勝に至るまで1度も負けないのです(決勝トーナメントで敗れれば当然優勝できません、つまりプール戦で敗れて決勝トーナメントに進出したチームの優勝がないということです。)。
しかし、2019年に日本で開催された第9回大会からその潮目がかわることになります。
初めて予選で敗北を喫した南アフリカがプール2位で決勝トーナメントに進出し、優勝カップを手にしたのです。これはラグビーの性質そのものが「変化」したことを示しています。「強いものが勝つ」から「勝ったものが強い」という性質にラグビーが変化したのです。
これはラグビーのルール変更(ラグビーは選手の能力の向上、また、観客がより楽しめるようにするために毎年のようにルール変更や、見直しが行われます)によってゲーム性が高まったことと、各国の分析力が著しく向上したことに起因すると考えられます。
このことから優勝するための必要条件として大会期間中の「変化」することの重要度が格段に高まったということになるのです。
また、この変化の必要性は今大会のAIによる勝利予測からも見て取れます。
AIによる勝利予測と実際の結果の相関関係
昨今のテクノロジーの進化により今大会からAIによる勝利確立が算出され、誰でも見ることができるようになりました。では準々決勝の対戦カードとAI予測がどのようなものだったか見てみましょう。
【準々決勝組み合わせとAI予測】
AI予測勝率 実際の勝利チーム
ウェールズ 58.67% vs 41.33% アルゼンチン アルゼンチン
アイルランド 54.84% vs 45.16% ニュージーランド ニュージーランド
イングランド 70.31% vs 29.69% フィジー イングランド
フランス 55.23% vs 44.77% 南アフリカ 南アフリカ
このようにAIの事前予測と実際の結果を照らし合わせてみるとAIは4分の3勝敗予測を外したことになり、またイングランドvsフィジーに関しては勝敗こそ的中させたものの、
試合結果は30-24であり、AI勝率が示すような大きな差ではない紙一重の勝負となりました。
では、なぜAI予測は実際の勝利チームを大きく外すことになったのでしょうか?
それは、AIの勝利確立の算出方法によるものだと考えられます。
AI予測はあくまで直近の試合までのデータを基に算出されているものであり、それはすべて当然過去データであり、直近の試合から次の試合までの変化を勝敗予測に加味することができないのです。
現代ラグビーにおいて、各国は高度に進化した分析力により、高速でPDCAを回転させ、自チームの状態、また相手の状況から、次の対戦に向けて自組織を変化させるのです。
つまり、ワールドカップにおいて優勝するためには、そもそもの自力となる高い能力を保有するとともにいかに「変化」させることができるか、が大きなキーファクターになるのです。
「変化」をもたらすために必要なこと
ではチームがワールドカップという限られた時間の中で可能な限り大きな「変化(進化または成長)」を遂げるためのポイントはどこにあるのでしょうか?
それは「負け」を経験することです。
もちろん、プール戦で決勝トーナメントに進出できない「負け」は許されません。しかし、決勝トーナメントに進むことができる余地を残し、かつ、「負ける」ことができれば、それはチームの成長対して最も効果的な機会を得るとなります。「勝利」は今この状態が最も良い状態だと認識を誤ってしまう要因になるのです。もちろん、勝ちながら変化を遂げることも可能ですが、勝利することで次に勝つために必要な要素を捉えることが難しくなると言えるのです。
「負け」を成長の糧にするためには
ただし、当然ですが負けることにはリスクが存在します。「負ける」ということは、現在の状態が相対的に勝利に満たしていないということであり、チーム作りの考え方や、これまでの努力のプロセスが間違っていた(足りなかった)ということを示すことでもあります。よってチーム内から疑念や不協和音が発生する可能性もあり、チームの力が分散、低下することも考えられます。よって、「負け」をチームとしてどのように捉えるか、どのように向き合うことができるのかが大切になります。
負けに対するリーダーの姿勢
「負け」を成長の糧にするために大切なことはリーダーのそれに対する姿勢です。負けという事実にどのように向き合うかによって、メンバーに対してその影響はプラスにもマイナスにも作用します。
まず、「その負けの責任はリーダーにある」とメンバーに伝えることです。チーム全体の責任を負うのは当然チームのトップであるため、このチームとしての負けを自分以外の誰かのせいにすることは決してしてはなりません。
その上で、正確に負けの要因を分析することです。どの領域がどれだけ足りず、それを埋めるためには何に対してどのように取り組むべきなのかを多角的に分析し、メンバーに対して示すことが求められます。
そしてそれに取り組んだ結果の未来をクリアにイメージさせることが必要です。
これらを明確に示し、メンバーからのどんな疑念に対してもクリアに答えることができればチームは次のステージに進むことが可能となります。
変化の確認とフィードバック
そして、メンバー一人一人に明確なゴール設定を数値化、または定義化を行います。
これができていれば、現在の進捗を随時正しくフィードバックすることができ、変化を確認しながら目標、目的までの現在地を確認することができるのです。
いかがだったでしょうか?
組織が成長のための変化を遂げるためには「負け」は必要な要素であり、それをリーダーが正確に捉えることが必ず次のステップに組織を導くことが可能になります。
世界のトップのチームも勝ち続けることはできません。
負け、失敗をどのように捉え次に活かすか。
リーダーの資質にかかっています。
文/後藤翔太
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