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Friday, July 8, 2022

【レビュー】時代と創意を映す意匠の変化に注目 丸紅ギャラリー開館記念展Ⅱ『「美」の追求と継承-丸紅コレクシ… - 読売新聞社

きもの好きライターのakemiさんが、新たに「美術展ナビ」の執筆陣に加わってくれました。早速、きもの姿できものをテーマにした展覧会を取材です。

6月7日(火)から丸紅ギャラリー(東京・大手町)で開催されている『開館記念展 「美」の追求と継承ー丸紅コレクションのきもの』は、74日(月)から後期となり、全作品展示替えとなりましたので取材に伺いました。

丸紅コレクションの3本柱は、染織品(きもの、帯、袱紗など)、染織図案、そして和洋絵画です。今回はその一つである染織品コレクションが展示されています。
戦前の丸紅商店がどのような意図とどのような審美眼を持って江戸を中心とした染織品コレクションの蒐集にあたったか、また染織技術の進歩に伴う伝統意匠の応用と新たな意匠表現の創造にいかにして取り組んだかが紹介されています。時代の変化と技巧の粋を映し出すに意匠の移り変わりに注目してみました。(※作品解説の一部は、図録から抜粋しています)

 保存状態の良さに目を見張る

展示室に入りまず迎えてくれるのが、こちらの刺繍と摺箔を併用した能装束。

網目模様に尾長鳥を描いた部分と霞模様に椿・梅・桜を描いた部分を大胆に雲型に区切っているのが大変印象的です。雲の形を図案化したものや、雲の形に区切って柄付けしたものを「雲取り」といいます。摺箔の金もきれいに残り大変保存状態が良いです。

紺繻子地雲取花折枝尾長模様縫箔 刺繍、摺箔 江戸時代 18世紀前半
入り口付近の展示風景

帯幅が広くなり、小袖の柄付けも変化

元禄のころ、女性の帯幅が広くなるにつれ、腰の上下で模様を変える小袖が登場しました。こちらも雲取りで上下を紅白に染め分け、上半身には『源氏物語』の各巻名の一部を刺繍し白く染め抜いた中にその一場面を墨描絵で描いています。下半身は「須磨」や「明石」の巻を連想させる海辺の風景を色鮮やかな友禅染と刺繍で表しています。様々な技法を使い大変贅沢な小袖です。この時代の小袖には文字の刺繍がよく見られますが、こちらの小袖はたくさんの文字が刺繍され、インパクトが強いです。『源氏物語』をすぐに連想できる文字が選ばれています。

染分縮緬地源氏絵海辺風景模様小袖 友禅染、絞り染、刺繍、描絵 江戸時代 18世紀前半

ユーモラスに描かれる巻狩

こちらの振袖は、富士山の裾野で行われている巻狩の様子を描いています。巻狩とは、獲物を大勢で囲い込みとらえる狩猟の一種で、中世には武士の軍事訓練として行われていました。少し離れてみると無地場が多いところに富士山が大きく目立ちますが、近くによってみると狩りをする人々や鹿や兎、猪などの獲物がユーモラスに描かれています。鹿と兎が同じくらいの大きさだったり、猪が人間よりずいぶん大きく描かれたりしています。人間もひょうきんに描かれ思わず頬が緩みます。

萌黄平絹地富士巻狩模様振袖 白上げ、描絵、刺繍 江戸-明治時代 19世紀前半(部分)
展示風景

こちらの振袖は松皮菱を藍と紅で染め分け、その中に鹿の子絞りの麻の葉と鶴丸を表現しています。松皮菱の合間を縫うように梅が刺繍と絞りで描かれています。鶴、松、梅、そして子孫繁栄を表す麻の葉と吉祥模様が描かれていることから、婚礼衣装と分かります。

染分綸子地松皮菱梅樹模様振袖 絞り染め、鹿の子絞り、刺繍 江戸時代19世紀前半
縹縮緬地源氏物語模様小袖 白上げ、刺繍 江戸時代 19世紀前半

丸紅創業家の婚礼打掛も

こちらは丸紅創業家の伊藤家に伝来した婚礼衣裳の打掛です。小葵模様の綸子地に扇の骨を草花で表した華麗な花扇がすべて刺繍で表されています。黒地ですが大変かわいらしく、裾にはたっぷり綿が入り豪華です。

黒繻子地花扇散模様打掛 刺繍 1897年(明治30)

昭和初期初期の着物たち~伝統に学び新たな「美」を

後に重要無形文化財保持者(人間国宝)となる上野為二は、左の《麻地盆栽模様帷子》の意匠をひとつずつ取り出し、そのまま意匠をまねるのではなく、当代のきものに相応しくなるよう再構成しました。このきものが制作された昭和初期、為二にとって修業時代であり、過去の様々な作品を研究模写していたそうです。

左:白麻地盆栽模様帷子 茶屋染、刺繍 江戸時代 19世紀前半 右:白繻子縮緬地盆栽模様着物 上野為二 友禅染・刺繍 1933年(昭和8年)

こちらは、控えめな色柄ですが藤、菫、たんぽぽ、土筆などが描かれ大変可憐な印象。地染の暈しも効果的です。上野為二の父・上野清江の作品です。

鼠縮緬地春草霞模様着物 上野清江 友禅染、刺繍 1933年(昭和8年)

それに比べると下の写真前列の2作は余白もないほど描き込まれとても力強いです。対照的でとても印象的な展示でした。

前列左:染分縮緬地異国風景模様振袖 今尾和雄 1936年(昭和11) 前列右:染分変り織地鳩桃柘榴模様着物 木村雨山 友禅染、刺繍 1935年(昭和10)

こうして時代を追って丸紅コレクションを観ていくと、江戸時代の小袖から昭和のきものまでその時代に流行った技法や意匠を知ることができます。ただ眺めるだけでも美しく眼福なのですが、技巧の変化や流行りなどを少し知ると一層味わい深く鑑賞できるように思います。

通路にはエピローグ「未来への継承」と題した丸紅の取り組みが紹介されています。

着物・浴衣などで来館の方は無料

最後に、ご存じですか?丸紅ギャラリーは「着物・浴衣など、和装で来館の方は無料」なのです。美を守り、伝えるという考え方から着物を着ていただく機会が増えればという想いで、今後の展覧会も適用となるそうです。

今年も早々に隅田川花火大会や江戸川花火大会などの中止が決定しています。何年も浴衣を着る機会がない…と思っているそこのあなた!浴衣は花火大会だけのものではありませんよ!!

近くにはいくつも美術館があります。浴衣や夏着物で出かけてアートな1日を過ごしてみませんか。

【ライター・akemi】 きものでミュージアムめぐりがライフワークのきもの好きライター。きもの文化検定1級。

Instagram(https://www.instagram.com/iizuka_akemi/)できものコーディネートや展覧会情報を発信中。

コラム『きものでミュージアム』連載中(Webマガジン「きものと」)(https://www.kimonoichiba.com/media/author/akemi/)

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