「日本一眺めのいいジャズ喫茶」。ファンの間でそう知られる一軒が、宮城県北部、伊豆沼を望む栗原市の高台にある。
夏はハスが
コロポックルの朝は早い。午前6時に起床し、春夏は草刈り、秋は落ち葉掃き、冬は雪かきから一日が始まる。「忙しい中にも自然に囲まれてゆとりがあるんですよ」。その日に来るだろう客の顔を思い浮かべ、約6800枚のアルバムから選曲する。
レコードのイメージが強いジャズ喫茶で、杉本さんはCDや、より高音質のハイレゾなどを音源にする「デジタル派」。自作のオーディオ機器から周囲と調和した澄んだ音が流れる。ジャズと豊かな自然。全国的にもあまり例のない組み合わせだ。
高校時代の吹奏学部では、サックスにも触れた。東京の大学に進学すると、ジャズに傾倒。ただ、東京の企業に就職して多忙な社会人生活を送るうち、いつしかジャズの音色は遠のいた。
2006年の初夏、東京の友人が手に入れた土地に「行ってみようや」と誘われ、栗原を初めて訪れた。今の店が立つ場所は、やぶに囲まれジャングルのようだった。冬に再訪してみて驚いた。葉を落とした木々の間からきらめく湖面が見えたのだ。「ひょっとすると……」。眺望に期待し、月に1度ほど友人と通って草木を刈るようになった。
しばらくして老後の趣味にと、オーディオをいじり始めた。元々、凝り性で機械好き。配線の美しさに腐心した試作品を大音量で鳴らしてみたいとの欲求の先に、あの場所を思い浮かべた。当時、電気や水道は通っておらず、大工事が必要だった。別荘とするには値が張りすぎる。オーディオと伊豆沼の景色が一つに重なり、出した結論がジャズ喫茶だった。
58歳で早期退職。行きつけのコーヒーの名店で
店には、ジャズとこの眺望を目当てに多くの常連客が訪れる。この春、杉本さんは店先の斜面にツツジを植えた。きれいに花が咲くのは5年ほど後。「地元の人も気づかなかった景色と音にさらに磨きをかけたい」。絶景の高台から店のこれからを見据えている。(読売新聞東北総局 長谷川三四郎)
【メモ】宮城県栗原市若柳上畑岡原20の6、東北新幹線くりこま高原駅から車で約5分。火水定休。新型コロナウイルス感染拡大の影響で9月1日まで休業予定。(電話)0228・24・7975
※この記事は、2021年5月3日から11日にかけて読売新聞宮城県版に掲載した連載に加筆・修正したものです。夏の特別編として、5回に分けてお届けします。
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〈伊達なジャズ喫茶3〉四季折々に変化する沼を眺めながら聴く一枚…宮城県栗原市、カフェ・コロポックル - 読売新聞
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