中国の電気自動車(EV)メーカー、比亜迪(BYD)はバッテリー式EVの販売台数で米テスラを抜き、新たに世界一の座に就こうとしている。
首位交代は10-12月(第4四半期)中に起きる可能性が高いが、そうなればEV市場にとって象徴的な転換点であるだけでなく、世界の自動車業界における中国の影響力拡大のさらなる裏付けとなるだろう。
トヨタ自動車やドイツのフォルクスワーゲン( VW)、米ゼネラル・モーターズ( GM)といったなじみのある企業が依然大半を占めるこの分野で、BYDや上海汽車集団( SAICモーター)など中国勢が本格的に存在感を示しつつある。
中国はここ数年で米国や韓国、ドイツを抜き、今では乗用車輸出で世界首位の座を日本と競うまでになった。今年10月時点で、中国本土から出荷された360万台のうち約130万台がEVだった。
深圳に本拠を置くヘッジファンドで、BYDとテスラの両方に投資しているスノー・ブル・キャピタルの中国事業責任者ブリジット・マッカーシー氏は「自動車業界の競争環境は変わった。重要なのはもはやメーカーの規模やレガシーではなく、イノベーション(技術革新)と進化のスピードだ。BYDはずっと前から、誰もが可能と考えた以上のペースでこれを実現できるよう準備を始めており、今や業界の他の企業は急いで追い付かざるを得ない」と指摘した。
量産モデル
こうしたEV勢力図の変化は、世界一の資産家でテスラを率いるイーロン・マスク氏とBYD創業者で資産家の王伝福氏の間で起きた競争の力学のシフトも反映している。
マスク氏が高金利下でEVを購入できる消費者はそれほどいないと警告する中で、王氏は攻勢を強めている。テスラが中国で最安値のセダン「モデル3」に設定した価格よりも、BYDが提供している6つの量産モデルははるかに安い。
BYD車について、マスク氏が2011年のブルームバーグテレビジョンの番組で揶揄(やゆ)している 映像をテスラ車のオーナーズクラブが今年5月に投稿した際、マスク氏は「最近ではかなりの競争力がある」と返信した。
BYDは中国国内ではテスラなどあらゆる自動車ブランドを引き離し続けている。ただ、海外でも大成功を収めるのは容易ではない。
欧州は製造業の雇用を守るため、米国に続いて、中国製EVへの輸入関税を引き上げる構えだ。米国については、米中間の貿易摩擦が激化しているため、事実上の立ち入り禁止だとBYDの経営陣は考えている。
マスク氏とは対照的に、王氏(57)はソーシャルメディアを避け、できるだけ脚光を浴びないようにしている。しかし、欧州連合(EU)が中国のEV向け補助金に関する 調査開始を表明する数週間前に行われたスピーチでは、中国ブランドが自動車業界の「古い伝説を打ち壊す」時が来たと宣言し、いつになく大胆な姿勢を打ち出した。
中国以外の多くの自動車購入者の間でBYDはまだそれほど知られていないが、著名投資家ウォーレン・バフェット氏が例外なのは間違いない。
バフェット氏率いる米投資・保険会社 バークシャー・ハサウェイは2008年、BYDの株式10%近くを約2億3000万ドル(現行レートで約325億円)で取得。バークシャーが昨年、BYDの保有を縮小し始めた際にはBYD株は上場来高値付近で取引され、バークシャーの持ち分の価値は約35倍の80億ドル前後にまで膨らんでいた。
バークシャーの副会長を務めた故チャーリー・マンガー氏が重視していたのは、BYDのバッテリー事業だ。マンガー家はバークシャーより何年も前からBYDに投資しており、同氏は今年11月に亡くなる数週間前のインタビューで、王氏に自動車事業への参入を思いとどまらせようとしたと話している。
BYDは03年に経営破綻した国営自動車メーカーを買収し、08年に自社初のプラグインハイブリッド車(PHV)「F3DM」を発表。初年度の販売台数は48台だった。
バッテリーも自社で製造する数少ないEVメーカーとして、BYDは他に類を見ない恩恵にあずかる立場にあった。自動車事業に参入する前の2000年代初頭には、中国企業で初めてモトローラやノキアにリチウムイオン電池を供給した。
自動車生産を始めてから約15年後、BYDはどうにかPHVの価格を内燃エンジン車と同等の水準まで引き下げることができたが、そのラインアップはまだアピールに欠けていた。
同社は16年、アウディやアルファロメオで働いていたヴォルフガング・エッガー氏をデザイン責任者に起用。また、フェラーリの外装責任者やメルセデス・ベンツの内装トップなど、他の外国企業の幹部も引き抜いた。
業界再編
中国がテスラを誘致し、外国企業が100%所有する中国初の自動車工場が建設されるころには、BYDはもはや地味な低燃費車を手がけるだけの企業ではなくなっていた。現在、同社の最高級モデルであるスポーツタイプ多目的車(SUV)「仰望U8」の価格は109万元(約2160万円)だ。
今のところテスラは売上高や利益、時価総額といった主要指標でBYDを上回っているが、来年にはこの差がかなり縮まるとバーンスタインのアナリストは予測。BYDの売上高1120億ドルに対し、テスラは1140億ドルと想定している。
王氏は中国東部・安徽省の貧しい村で8人兄弟の下から2番目の子どもとして育った。10代で両親を亡くし、兄姉に支えられながら高校や大学で学んだ。
社会人になって最初の数年間は北京を拠点とし、バッテリーや家電製品に不可欠なレアアース(希土類)に関する政府研究所の中堅職員として働いた。その後、友人から30万ドル近い融資を受け、1995年に深圳でBYDを設立。ブルームバーグ・ビリオネア 指数によると、同氏の資産は現在148億ドル相当。
アナリストは、BYDが来年、自動運転機能などのさらなる技術を結集した第3世代のEVを投入するとみている。
同社がより手頃な価格の製品で、蔚来汽車(NIO)や 小鵬汽車など新興企業の後塵を拝している分野の一つだ。こうした分野では、中国国内の競合企業が500社強から100社程度に減ったにもかかわらず、華為技術(ファーウェイ)をはじめとする資金力のあるハイテク大手の新規参入が相次いでいる。
ブルームバーグ・ニュースが3月、23年に4年連続で自動車販売台数トップとなるトヨタ自動車のようなビッグプレーヤーをBYDは目指しているのかと尋ねたところ、王氏はEV産業の発展が業界再編につながるとの見方を示した。
「自動車メーカーの業績はその会社のテクノロジーと対応にかかっている。中国の電動化においてBYDは今のところ勝ち組だが、明日どうなるかは分からない。それでもわれわれは自分たちの強みを生かし、良い車を造り続けていく」と語った。
関連記事
原題: Tesla Loses World’s Most Popular EV-Maker Title to China’s BYD(抜粋)
テスラ、EV販売世界一から陥落か-中国BYD台頭で勢力図に変化 - ブルームバーグ
Read More
No comments:
Post a Comment