「水を飲めない子どもが増えているらしい」
読者から、こんな情報が寄せられた。東京新聞「ニュースあなた発」が、無料通信アプリLINEでつながる読者らに尋ねると、「私の子どもも飲めない」という声が複数寄せられた。子どもたちに何が起こっているのだろうか。(デジタル編集部・小寺香菜子)
◆食事中も水を飲まない
千葉県の長谷川まゆさん(38)は「小1の長男は、味の付いていない飲み物を飲みたがらない」と声を寄せた。長男はコーラやジュースを好んで飲み、食事中も水やお茶を飲まないという。
「初めて聞いた」「信じられない」といった反響がある中で、この女性以外にも「水が飲めない」との声は届いている。
「17歳のいとこは水を飲むことが苦手で、スポーツドリンクやジュースを選んでいた」
「中1の娘は、常温の水が苦手。味がなくておいしくないとのこと」
「高校生の息子が2人いるが、好んで飲むのはジュース、炭酸飲料。水やお茶は嫌う」
◆中学生69人にアンケートすると…
東京都八王子市恩方中の早川功教諭から取材協力の申し出があり、12月初め、同校の2年生69人にアンケートを行った。
このうち10人が「水を飲むのが苦手」と答えた。学校に持参する水筒の飲み物を尋ねると、お茶が35人と最も多く、水の26人を上回っていた。スポーツドリンクは8人いた。
水が苦手な理由は「味がないから」「まずそう」という回答があった。ミネラルウォーターは飲めても水道水には抵抗があるという生徒も。同じ水でも「ぬるいと嫌」という声もあった。
早川教諭は「学校の水道を使いたがらない生徒は、近年増加したと思う」と実感を持って語る。
◆新型コロナで水筒持参の影響?
ただ、子どもがジュースなど甘い飲み物を好むのは、今に始まったことではない。
水に関する情報を発信している「アクアスフィア・水教育研究所」代表で武蔵野大客員教授の橋本淳司氏は、水が苦手な子どもが増えた要因の一つとして、2020年から感染が広がった新型コロナウイルスの影響を指摘する。
新型コロナの感染防止のため、校内の冷水器や水道の水を飲むことを禁止する学校が増え、子どもたちは水筒を持参するようになった。魔法瓶メーカー・サーモスが2023年1月に全国の小中高校生の保護者1321人に行った調査によると、「学校や部活へマイボトルを持参している」割合はコロナ禍(2020年2月頃)前の71.3%から、80.7%に増加した。
熱中症対策から水筒にはスポーツドリンクを認めている学校もあり、子どもたちが「味の付いた」飲み物に触れる機会はコロナ前に比べ、増えている。
◆学校の水を飲まなくなった
橋本氏も、都内の小学校の教員などから「水が飲めない子どもが増えている」との声を聞いている。ある小学生の親からは、コロナ禍で校内の冷水器や水道の水が飲めなくなったことで「水道水を飲んではいけないと、暗に教え込まれているような気がする」との声も寄せられたという。
昨年度まで埼玉県内の小学校で校長を務めた田畑栄一さんは、「コロナ禍では学校として『校内で水道水を飲んで』とは言えない状況だった。重いのに、水筒を毎日2本持ってくる子どももいた」と振り返る。
新型コロナの感染は一段落したものの、別の学校の教員は「今や水筒持参が日常。水道の水を飲む姿は皆無となった」と明かす。学童保育のスタッフは「コロナ禍以降、水筒持参の状態が続いているので、水を飲まない子が増えても不思議ではない」と話す。
◆熱中症の疑いの児童でも…
橋本氏は「水が飲めない」ことによる弊害を危惧している。
ある都内の小学校が今夏、児童に配った学校通信を目にしたからだ。
「熱中症の疑いで保健室を利用した児童の様子を見ると、水を飲めない児童が目につく。症状が出ている子に、コップをくんだ水を渡して飲むように促しても飲めない例もある」
近年の猛暑から、学校では、子どもたちに熱中症対策として小まめな水分補給を呼び掛けている。
橋本氏は「熱中症対策にはスポーツドリンクが有効」としながらも、「常飲してしまうと糖分の取り過ぎになる恐れもある」と指摘する。
災害時には、冷えていない水しか用意できないこともある。橋本氏は「いざというときに水を飲めないと困るのでは」と危機感を抱く。
橋本氏によると、「水苦手」を克服する訓練までしている小学校や幼稚園があるという。
橋本氏は「水が飲めないというのは思い込みかもしれない。緊急時の選択肢を広げるためにも、日頃から水を飲む習慣を付けることが大切だ」と訴える。
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