[岐阜県関市 14日 ロイター] - 岐阜県の長良川沿いの町、関市小瀬で暮らす足立陽一郎さん(48)はこれまで常に、鵜(ウ)と生活を共にしてきた。幼少期には家で飼っていたウが死ぬたびに涙を流したという。
足立さんは現在でもウの世話を熱心に続けている。毎朝、鳥屋の籠からウを出しては細長い首をなで、健康状態を確かめ、信頼関係を深めている。
「私にとって、ウは仕事の相棒みたいなものだ」
足立さんは「鵜匠(うしょう)」の家系の18代目だ。現在、日本全国でおよそ50人が、約1300年続く鵜飼いの伝統を支えている。鵜飼いは川魚のアユを捕まえる方法として理想的だと考えられており、足立家も代々「宮内庁式部職(しきぶしょく)鵜匠」に任命され、皇室に献上するアユを捕らえてきた。
この漁法は、かつては日本で広く行われていたほか、中国でも実践されているという。ただ現在、鵜飼いの大部分は観光事業に支えられている。
そして今、環境の変化により、従来に比べアユの水揚げが減ってサイズも小さくなっており、鵜匠やウの生活が脅かされているという。
毎日仕事をしていると変化を感じる、と長良川で40年以上近く働いてきた足立さんは話す。
5月から10月の間、足立さんは日が暮れると、操船者や補助役と共に、首と体にひもを巻いた10羽ほどのウを乗せた船を出す。船上で灯したかがり火が暗い川面に反射すると、川の底でじっとしているアユは驚いて泳ぎ回る。ウが狙いを定めて魚を捕らえるが、その首元にはひもが掛けられているため、大きなアユはウの食道を通らないようになっている。
ウの喉がアユで膨らんでくると、鵜匠は船上の籠に吐き出させる。観客は近くに浮かぶ観覧船から、鳥の羽が水しぶきを上げ、かがり火が激しく揺れる光景を見学する。
アユの水揚げ量は少ないことがほとんどだという。足立さんと家族が経営する旅館でも宿泊客らにアユの塩焼きを提供しているが、そのアユは地元の鮮魚店から仕入れたものだと明かした。
足立さんは魚の減少が天候に起因するものだと考えている。天気の変化を予想することが難しくなり、かつては静かだったこの川も、豪雨で一気に増水するようになった。洪水を防ぐ堤防が建設されたことで川底に砂利や砂が増え、アユが好んで生息する大きな石が覆われてしまったという。
「まだ私が学生で父と一緒に船に乗っていた頃のアユは本当に立派で、1匹食べたらお腹がいっぱいになるような大きさだった。ただ近年は、遡上(そじょう)したてのような小さなアユがたくさんいる」と足立さんは話す。
「昔は大きな石しかなかったが、最近は小さな砂や砂利が増え、それに比例してアユも小さくなっていったようだ」
足立さんの懸念は、周辺地域の環境調査でも裏付けされている。岐阜大学の原田守啓(もりひろ)准教授によれば、長良川の水温が30度にまで上昇した影響でアユの産卵時期は1カ月ほど遅れているという。
また、河川管理当局による一連の洪水対策整備の後、アユの餌となる藻が生えるような大きな石が減っている、と原田氏は指摘する。
小瀬から川を下った岐阜市内では、さらに大がかりな、観光を主軸に置いた鵜飼い事業が行われている。ここでは鵜飼いの実演を観ながら、船上で飲食を楽しむこともできる。
小瀬と同様、ここでも環境の変化による影響が出ている。川が荒れると観覧船が押し流されてしまったり、時には中止せざるを得ない場合もあるという。
観覧船の運航中止への対策として、岐阜県の非営利団体(NPO)「ORGAN(オルガン)」は試験的に川沿いに桟敷席を設置した。夜には船上と同様に鵜飼いを観覧することが可能で、舞妓(まいこ)などの伝統芸能も体験できるという。
「しっかりとした空間を作れば高付加価値な鵜飼い観覧を提供することができるのではないかと思い、この桟敷席を4年前にスタートした」とORGANの蒲勇介(かば・ゆうすけ)理事長は言う。
足立さんは鵜飼いの未来については不透明だとしつつ、過去を敬い、今を大切にしながら生きるだけだと語った。自宅では鵜匠を続けてきた先祖に祈りを捧げ、庭で16羽のウを丁寧に世話している。
足立さんの息子の十一郎さん(22)は、この伝統を継ぎたいと考えている。いまは本業の精密機器メーカーに勤める傍ら、鵜飼いの船を手伝い、後継者として修業を積んでいる。
「できれば息子もここで鵜飼いをやってほしいと思っているが、鵜飼いだけで生計を立てるのは難しい時代になるかもしれない」と足立さんは言う。
「私たちは一匹でも多くアユを捕らせるために、ウを日々養っている。モチベーションが無くなれば鵜飼いを続ける意味もない」
(Tom Bateman記者、Rocky Swift記者)
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フォトログ:長良川の「鵜飼い」に異変、環境変化が伝統に影 - ロイター (Reuters Japan)
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