インターネット商用利用30周年の節目に、サービス開始当時から現在までの振り返りとして、IIJ 技術研究所所長の長 健二朗氏に話を伺うインタビューの後編となる(前編はこちら)。引き続き、語り手と聞き手の中間の立場で、同社の堂前 清隆氏(広報部 副部長/テクノロジーユニット シニアエンジニア)にもご参加いただいている。
今回は、スマートフォンやLINEが登場した2010年前後から、動画や音楽のサブスクリプションサービスを含めリッチなコンテンツが日常的に利用されるようになった2010年代、そして2020年代のコロナ禍以降の変化などを語っていただく。(聞き手:編集部/構成:高橋正和)
[目次]
スマホとLINEでカルチャーが変わった2010年前後
――前編では、ブロードバンドの定着とP2Pファイル交換ソフトの流行を契機としたトラフィック急増、およびその対策まで伺いました。続く2000年代終わりから2010年頃の大きな変化というと、iPhoneが登場して、スマートフォンの時代が始まりますね。
堂前氏:日本で最初に発売されたのは、2008年の「iPhone 3G」(当時のソフトバンクモバイルから発売)ですね。
長氏:スマートフォンは、その前のいわゆる「ガラケー」が強かったためか、日本で最初は普及がちょっとくすぶっていました。急速に普及したきっかけになったのが、2011年6月に登場したLINEだと思っています。同年3月に起きた東日本大震災の直後でしたね。
堂前氏:そこで一気にスマートフォンがインターネットのトラフィックの主役になってきた。
長氏:それは言い過ぎかな(笑)
堂前氏:言い過ぎですかね(笑)。ただ、LINEの登場で、主役とはいかないまでも、 みんなスマートフォンを使うよね、という雰囲気になってきたのが2011年のあたりですね。
この頃になると、ある意味でブロードバンドの方は、もはやそんなに変化がなくなってくる感じですかね。
長氏:固定回線については、そのもう少し後の2015年頃に、動画や音楽の定額サブスクリプションサービスがガツンと来るんですよ。そこで固定回線の使われ方が変わる気がします。
スマートフォンとLINEでカルチャーが変わったと思ったのは、データサイズの意識ですね。それまでのインターネットでは「写真のサイズを大きくしすぎない」というように、データの節約に気を使っていた。でもLINEが出てきて、写真だろうが動画だろうが何も気にしないで添付するようになった。あれが新しい世代の台頭だったんじゃないかと思うんですよね。
――昔のインターネットを知る者としては、スマートフォンを使って電車の中で動画を見たりするのには少し罪悪感のようなものを感じてしまいますが、今はみんな普通に見てますよね。
堂前氏:それまでは、インターネットを使うには、家や学校などでPCに向かってさあ使うぞ、という感じでした。それがスマートフォンを使うようになって、ポケットから出した瞬間に使っているという風に変わりましたね。
――一時期「ユビキタス」という言葉もありましたが、いつのまにか、そのような言葉を使うまでもなく当たり前になりました。
堂前氏:確かに、昔のWindowsではIEのアイコンが「インターネット」となっていて論議を呼びましたが、あれはダブルクリックしてインターネットするという意識だったんですよね。今は、インターネットを使うことに、何もステップを踏む意識がなくなりました。常にインターネットに接続して、使っている。
ネットワークからサービス、その中の文化へと関心が移り変わる?
――ちょっと余談ですが、世の中のインターネット観が端的に表れている気がして、「ユーキャン新語・流行語大賞」の受賞語から、インターネットやIT関係の言葉をピックアップしてみました。すると、受賞語のレイヤーが年ごとにどんどん上がっていることがわかります。
堂前氏:1995年は「インターネット」そのものが対象だったんですね。
――「ブロードバンド」も2001年に入ってますね。
堂前氏:「ブログ」や「mixi」ぐらいまではインターネットのサービスですね。
それが「なう」や「インスタ映え」になって。さらに(YouTuberとして有名になった)「フワちゃん」や、(歌い手として活動を始めたAdo氏の)「うっせぇわ」のように、インターネットと関わりの深い言葉が、特別インターネットを意識されずに広がっていると。
――ブロードバンドによる高速・常時接続が当たり前になった2000年代後半あたりからはインターネット上で何をするかに関心が移り、SNSや動画配信サービスが当たり前になってからは、その中のカルチャーに関心が移る、といった変化なのでしょうね。インターネットの基盤を支え続けてきたIIJは、こうした変化の背景をどう捉え、どのような取り組みをしてきたか、といったお話をさらに伺えればと思います。
年 | 主な受賞語 |
1995 | インターネット |
1999 | iモード |
2000 | IT革命 |
2001 | ブロードバンド、e-ポリティクス |
2005 | ブログ |
2006 | mixi |
2007 | ネットカフェ難民 |
2010 | 〜なう |
2011 | スマホ |
2015 | ドローン |
2016 | ポケモンGO |
2017 | インスタ映え、Jアラート、フェイクニュース |
2018 | eスポーツ、#MeToo |
2019 | #KuToo、○○ペイ |
2020 | オンライン○○、フワちゃん |
2021 | うっせぇわ、親ガチャ |
2022 | スマホショルダー |
※ユーキャン新語・流行語大賞より、INTERNET Watch編集部がピックアップ
LINEや動画サブスクがトラフィックを押し上げてきた
――さきほど少しサブスクリプションサービスの話が出ましたが、2010年頃以降で、そうしたインターネット利用の転換点になったアプリケーションやサービス、出来事などについて、もう少し教えてください。
長氏:ここまで話してきたとおり、YouTubeで動画が出てきて、スマートフォンが出てきて、LINEでカルチャーが変わって、サブスクリプションサービスが始まる、特に目立つのが動画配信サービス、という流れですね。
今回、2000年代後半からのトラフィックの移り変わりと、年代ごとの代表的なアプリなどをまとめた図を作ってみました(下図)。
コロナ禍で起きた「変化の先取り」と「長く変わらなかったものの変化」
――YouTube、iPhone、LINEといったものに続いて、NetflixやPrime Videoなどがキラーアプリになっている、というのは納得感がありますね。あとZoomなども。
長氏:それから、2020年のコロナ禍(COVID-19)ですね。コロナ禍で変わったことの見方はいくつかありますが、私は、「その後数年の間に起きるはずだったことが前倒しで起こったこと」と、「長く変化しなかったものが変わったこと」の2つがあると考えています。
前者はたとえば、子どもが家で地上波のテレビよりも「Disney+」などの動画配信サービスを見るようになった。インターネットのトラフィックを見ると、学校の休みの期間に昼のトラフィックが増えて、学校が始まると減ります。こうした傾向は、コロナ禍前にはほとんど見られませんでした。
後者は、役所の手続きのオンライン化とか、学校のオンライン化とかですね。そのままでは多分いつまでも変わらなかったものが、変わらざるを得なくなったという。
この2つの側面は、似てるようでちょっと違うかなという印象があります。
――個人的な体験では、家のインターネット回線が、コロナ禍に入ってから、明らかに昼間に混雑するようになりました。企業が使う平日昼間のトラフィックが家庭に分散したというのは、傾向として見られたんでしょうか。
長氏:コロナ禍の頃、特にその初期の混雑には、いろいろな原因があります。まずは、アクセス網で上り回線があまり考えられていなかったのが、Zoomなどで上りを使うようになったがゆえに起こった問題ですね。次に、企業のVPNの設備が貧弱で、容量が足りなかった問題。そしてやはり、家庭やマンションのインターネット設備が古くて、Zoomなどを始めると全然もたなかったという問題もあります。
いずれにしても、いろいろ潜在的にあった問題が一気に顕在化したのだと思います。
堂前氏:それを考えると、インターネットの(インフラの)底上げという意味では、プラスになったんじゃないかなという気がしますよね。
――その少し前から、Microsoft 365やGoogle Workspaceなど、企業のクラウド利用が進み始めたというのもありますね。
堂前氏:企業の活動がインターネットと密接になってきたところにコロナ禍があったので、リモートワークのテレビ会議などのトラフィックが家庭のトラフィックにドンとプラスされた感じですね。
長氏:5年前は、普通の人がZoomのようなツールを使う時代が簡単に来るとは思っていませんでしたよね。
堂前氏:長さんのグラフを見ると、コロナ禍の時期にトラフィックが一度ガッと伸びて、またもとのラインに戻っている感じがありますね。
――先ほどの話の、数年間分の変化を先取りしたということでしょうか。
長氏:前倒しになった要素は強いと思います。それまでZoomを使わなかった人が使うようになった。そのあと出勤がある程度復活しても、リモートワークがなくなるわけじゃなくて、Zoomを使う機会は残っているので、コロナ禍前のトラフィックへと完全に戻るわけではありません。
だから、一時的に増えて減った部分もあるし、もとに戻らない部分もそれなりにあって、引き続き増加基調にあるのだと思います。
環境が整ったタイミングでコロナ禍が来た
堂前氏:しかし、2004年の頃にトラフィックを問題にしていたときと比べても、今は著しいですね。
長氏:それは、グラフの軸の取り方の問題であって(笑)。
堂前氏:伸びだけで見ると、あのときの方が異常な伸びだったんですかね。
――このあたりは前編の話題にもありましたが、先に危機的な状況が起きて慣れていたことで、その後の大きな変化にも比較的うまく対応できた、ということもあるのでしょうか。
長氏:変化というのはいつも、環境が整ったところに、ちょうどうまくヒットするサービスや商品が出てきて、結果として時代が少し動くんだと思っています。
(前編で話した)P2Pも、何もないところからポッと出てきたわけじゃなくて、常時接続ができるようになり、みんなが手元でPCを使って動画を再生したりといろいろなことができる環境ができたからヒットしました。
コロナ禍の頃も、いきなりZoomができるようになったわけじゃなくて、それまで連綿とビデオ会議ツールが開発されてきた流れがあって、改良されて使いやすくなってきたのと、クラウドがうまく使えるようになってきたこと、それから、スマートフォンの性能が上がって、できることが増えたことが大きいのかなと思います。
堂前氏:言い方は悪いですが、コロナ禍が来たのが、環境が整ったタイミングでよかったと。
長氏:コロナ禍が3年早く起こっていたら、われわれが対応できたかどうかは怪しい。
――その3年の違いは、どのあたりでしょうか?
長氏:あらゆる面において、でしょうか。技術的にも、それを使いこなすユーザーのリテラシーも含めてですね。
堂前氏:ちなみにIIJでは、コロナ禍の3年ぐらい前から、インターネットで仕事をしようと言っていて、2018年には「デジタルワークプレース」という言葉を打ち出してました。
長氏:あのときは、(2020年に開催予定だった)東京オリンピックの影響で、都内では通勤などに影響が出るだろうから、全部デジタルにして在宅ワークなど柔軟な働き方を可能にしよう、ということでしたね。
堂前氏:「デジタルワークプレース」はもともとガートナーの言葉なので、世界的にも日本的にも、仕事をクラウド化していこうという動きがあったわけですね。日本は特にオリンピックもあって。そうして通信業界的には十分に備えたところに、コロナ禍の衝撃という全然別のものが到来したという。
――「働き方改革」なんて言葉もあった時期ですよね。
堂前:はい。なのでIIJとしても、その分野でこれから通信を売っていこうと力を入れ始めていたときに、コロナ禍が来た、ということになります。
1コンテンツがネット全体に影響を及ぼす2010年代以降
――コロナ禍から少し戻って、LINEが登場した頃以降の2010年代のトラフィックについて、世の中や技術の変化などを教えてください。
堂前氏:2010年代の前半の頃、P2Pとか関係なく純粋に通信が増える時期がありました。そこで、PPPoEが輻輳して、PPPoEじゃなくてIPoEを使おうという動きが起こって。あれもブロードバンドの変革を余儀なくされた時期だったのかなと思います。
背景としては、写真や動画などのリッチなコンテンツを皆が潤沢に使うようになってきたことがあります。
堂前氏:また、この頃はスマートフォンの利用が急速に立ち上がった時期でもありますね。スマートフォンがメインで、ガラケーの人もいる、という状況に変わった時期が2014年ぐらい。IIJでいうと、2012年にモバイルサービスをリニューアルして「IIJmio」の個人向けLTE接続サービスを始め、2015年にスマートフォンの販売を始めた頃です。
なので、2010年代半ばは、通信サービスにとっても、スマートフォン向けのサービスやアプリの普及に応じて、通信サービスの利用者や通信量の増大などの変化をひしひしと感じていた時期という気がします。
――それまでインターネットを使っていなかった人もスマートフォンで入ってきましたね。
長氏:その頃は、動画などの利用が増えたこともあって、トラフィックの流れやバックボーンの作りも変わってきており、IIJでもその対応を行っていました。それまで国際回線で海外から入ってきたコンテンツが、Googleなど海外の大手が日本に拠点を持って、国内の接続点からデータが来るようになった。あるいは国内ISPに海外コンテンツのCDNキャッシュを置くようになってきたのもこの頃ですね。
堂前氏:その結果、日本のインターネットのトラフィックが暴れるようになったという話を聞いています。以前はトラフィックが流れてくる「川上」が決まってたんですが、いろいろな事業者が日本に進出した結果、どこから流れてくるかわからない。さらに、あるときCDNのキャパシティを超えると、その瞬間に別のCDNから流れてくると。利用者の波によってデータの流れる方向も変わってくるので、事前の計画どおりにいかなくなっていると、ときどきIIJのバックボーンチームがボヤいています。
そういう意味でいうと、この頃はコンテンツが力を持ち始めた時期なんじゃないかと思います。その頂点のインパクトの大きな出来事に、2020年の大晦日に行われた、嵐の解散コンサートの配信がありました。
あのときの日本のトラフィックのデータを見ると、コンサートの時間帯だけグラフがポコッと上がって、それでコンサートをやっていたんだとわかるんです。しかも、途中でNHKの「紅白歌合戦」に出演していた時間帯だけトラフィックがストンと下がって、戻ってくるとまた上がるという(笑)。そのぐらい、1つのコンテンツが日本のインターネット全体にインパクトを持つ時代になったんですね。
――(2022年の)サッカーのワールドカップ中継も、インターネットにインパクトがありましたね。
長氏:あとは、ゲームの(アップデートの)配信もあります。
堂前氏:「エーペックスレジェンズ」のアップデートが出ると、日本のインターネットが埋まるとか。あと、「フォートナイト」や「ファイナルファンタジー」シリーズなどもそうですね。
長氏:100GBクラスのアップデートが配信されるとかありますね。
堂前氏:それがきっかけの1つとなって、総務省の「CONECT」(インターネットトラヒック流通効率化検討協議会)が2020年にできたわけですよね。設立の問題提起の資料を見ると、名前は伏せていますが、Call of Dutyやフォートナイト、Apex Legendsのダウンロードのトラフィックが大きい。なので、1つのコンテンツが世界や日本のインターネットを振り回す時代がもう訪れているという。
もはや、コンテンツを見ながらでないとネットサービスを運用できないという感じになっていいます。そのため、CONECTに参加している企業も、ISPやCDNだけでなく、Netflixやソニー・インタラクティブエンタテインメントも入っているのが、それまでになかったことだなと思います。
長氏:もともとCONECTの意図は、ISPとコンテンツプロバイダーが情報共有できる場を作りましょうってことだったんですよ。コンテンツプロバイダーの側もコンテンツをちゃんと届けたいし、ISP側も事前に情報をもらえれば準備ができるなど、協調できるということで。
堂前氏:最近はゲームメーカーさんも気にして、発売日の前に配信して当日になったらプレイできるようにするなど、集中するのを避けることをしてくださることもありますね。
長氏:遡れば、Windows Updateで15年くらい前から起こった問題なんですよね。今は多少時間を散らすようになって、だいぶマシになったんですが。昔は時間ぴったりに世界一斉アップデートということで、インターネットが混んでいました。
サービスを快適に使うには、最高速より底上げと安定性が大事
――ここまで、今までのインターネットの話をお聞きしました。最後にこれからのインターネットがどうなるかについて、お考えを聞かせてください。
堂前氏:われわれはこれまで、基本的にはインフラをどんどん増やしてきました。そのとき、たとえばルーターを最新の機種に入れ替えれば同じコストでキャパシティがアップするということがありましたよね。
これは、いわゆる「ムーアの法則」で、どんどん半導体の性能が向上するのに助けられてきたと思います。しかし、昨今ではムーアの法則も限界なんじゃないかと言われていて、単純に従来のラインに乗っていけないところもあると思います。
さらに、電力や環境問題まで影響を与えるようになってきました。いまや世界の電力消費の3%がデータセンターが使っているという数字もあって、このままどんどん設備を増やしていくことが、本当に最善なのかという問題もあるかと思います。
長氏:やはり、また転換点の時期にいると思います。今までは回線の容量を増やして解決する方向でしたが、いまや家庭に10Gbpsの回線が来るようになっていますね。じゃあ、今後は家庭に100Gbpsがいるかというと、当面はいらないように思います。
それよりもわれわれがフォーカスしたいのは底上げの方です。10Gbpsでつながっている家庭もあれば、10Mbpsが出ない家庭もある。あるいは昼間は100Mbps出るんだけど夜出ないとか。ちょっと地味なんですが、そういったことの解消が、われわれの使命としては大事なのかなと思います。
だから、スピードテストで1Gbps出ることよりも、Zoomが使いたいときにちゃんと使える、子どもがDisney+を見たいときにちゃんと見られる、といった、当たり前のサービスを当たり前に提供することが課題だと思っています。
堂前氏:たとえば、有線インターネットに1Gbpsの速度があっても使い切れないことが多い一方で、Zoomやオンラインゲームやるとなると、10Mbpsくらいは安定して出てほしい、というような。
長氏:一般のユーザーは、別に何ギガが欲しいってわけじゃなくて、Zoomがやりたい、動画が見たいわけで。通信事業者に求められているのは、ユーザーの方々が気にしなくていいだけのサービスをきちんと提供することじゃないかと。
また、スループットや遅延の最大値よりも、それがどれだけ安定しているかの方がサービスのクオリティに効いてくる。1Gbpsが出るけど波がある回線よりは、最大速度はそれほどではないけど安定した性能が出る回線の方が、本当は使いやすいはずです。
そこについては、ちょっと大げさかもしれませんが、文化から変えていかないといけないと思っています。たとえば自動車については、昔は馬力などのエンジン性能で語られることが多かったですが、今は優先度が下がっていて、居住性や安全性、運転しやすさのような、体験の価値が訴求されるようになっています。
インターネットも、今はどうしてもスピードテストの数字の話になりがちですが、本当は使いたいサービスがちゃんと使えるサービスがいいはず。それを示すための指標をわれわれが示せていないので、そこを頑張っていきたいと思っています。
堂前氏:長さんの研究では、今それを試行錯誤していると。
長氏:そうですね。いくつか試行錯誤しています。
たとえば遅延の安定性の技術として、L4S(Low Latency, Low Loss and Scalable throughput)と呼ばれている技術がIETFで標準化されてようとしています。これを使うと、既存のインターネットの中で、もうちょっと遅延を短くできる。そういうのを取り入れると、今のインターネットを劇的に変えずに、遅延の安定性を桁違いによくできる可能性はあります。
バックボーンは特に、これまでの延長でシンプルに「どんどん増やす」のも悪くないと思います。でも、それだけでなく、ある程度コントロールできる技術を入れていかないと、うまくいかなくなるように思ってます。
――ちなみに、今ある回線で最大のパフォーマンスは出せているとして、これから何ができたら良くなるんでしょうか。
長氏:たとえば、同じZoomを使うのに、最大100Mbpsの回線と最大1Gbpsの回線で、普通に使うぶんには、体感の品質は変わりません。ただし、ノイズが入ってきたときには、余裕がたくさんある1Gbpsの回線の方が安定します。
これについて技術者は、容量を増やせば安定度が増すものの、ある程度のラインから上の容量になると、そこまで余裕を設けてもあまり意味はない、とは語れます。でも、単に最大の通信速度だけ「100Mbpsと1Gbpsの回線があります」と示すと、みんな当然1Gbpsがいいと思いますよね。このあたり、提示のやり方をもっとどうにかできないかなと。
インターネット接続サービスが、単に回線をつなぐだけでなくて、「Zoomで支障なく会議ができる」とか「動画を快適に楽しめる」とかいった、生活を支える基盤になるんだと定義すると、そのサービスのあり方やその伝え方も、もっと考える余地があるのではないかなと思っています。
――そうしたところは、われわれメディアにとっても課題であると思います。理論値で最大これだけの速度のサービスです、ということは言いやすいですが、安定度に関してはどうしても個々の事情、物理的なケーブルの質や置かれた環境、極端な話では超ヘビーユーザーが隣人にいるかいないかも影響しうる(笑)ところで、語りにくい。例えば、必要十分なレベルを最低水準として保てる仕様を標準化して、「この水準のサービスです」と言えるようになったりするといいのかもしれないですね。
堂前氏:現状、インターネット環境は二極化しているのかなと、私は思います。今の時代に要求される最低限のラインに到達していない環境にいる人もいる一方で、数字だけ見て10Gbpsを選んで、けっこうオーバースペック気味な状態になっている人もいます。
そこで私たちは、最低限に満たない人は底上げしていく一方、数字だけ追い求める人にはそこまでいかなくてもいいんじゃないかと説明する、というのも必要なのかと感じますね。
――こうしたところは今後の課題として、また10年後にお話を伺えたらと思います。本日はありがとうございました。
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