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Tuesday, June 20, 2023

変化を乗りこなす意思決定プロセスOODAを知っているか | ウェブ電通報 - 電通報

アーロン・ズー

変化が激しく、価値観の多様化が急速に進む世の中で、「チームづくりがうまくいかない」「時代の変化スピードに対応するのが大変」といった課題を抱える組織も少なくありません。

そのようなビジネス課題を解決に導く可能性を秘めているのが、「OODA」(ウーダ)という概念。観察(Observe)、判断(Orient)、決定(Decide)、行動(Act)の頭文字を取った言葉で、欧米の経営やマーケティングでは従来のPDCAだけでなく、OODAが必要不可欠な意思決定プロセスとして認知されています。

OODAとは何なのか?PDCAとの違いは?OODAを実践する方法とは?
OODA式リーダーシップ 世界が認めた最強ドクトリン」(秀和システム)を著書に持つ電通の事業開発プロデューサー、アーロン・ズー氏が解説します。

なぜ、日本にはリーダーシップ教育が不足しているのか?

電通のアーロン・ズーです。OODAの話をする前に、「リーダーシップ」についてお話しさせてください。

私は大学までロサンゼルス、東京、上海を転々としてきたのですが、リーダーシップという概念をちゃんと習ったのはROTC(アメリカ空軍予備役将校訓練部隊)に入ってからでした。もちろん、日本の学校にも「リーダー」という役割はありましたが、リーダーシップという概念を基礎から学んだ人は、あまりいないのではないかと思います。

なぜ、日本にはリーダーシップの教育が不足しているのか?その要因はさまざまですが、「日本はリーダーシップを必要とする環境ではなかった」ことは一因として考えることができるでしょう。例えば、アメリカのように個々の自己主張が強く、チームを束ねるのに膨大なエネルギーを必要とする環境では、必然的にチームを正しい方向に導く強力なリーダーシップが求められます。それと比較して日本は、年功序列で合議型の意思決定プロセスが尊重される文化のため、そこまで強力なリーダーシップは必要とされてこなかったのではないでしょうか。

それでも、ビジネス構造そのものがシンプルであれば、高度経済成長期のように問題はありませんでした。しかし、近年はデジタル社会によってビジネスが多様化し、過去の成功体験が通用しなくなっています。

私は日ごろの業務でクライアントの経営層から、人材や離職率についてご相談いただくことが多いのですが、最初は新規事業開発の話をしていても、突き詰めていくと結局、人材の悩みに行き着きます。どんなに業績が良くても、“人”の問題を解決できなければ、その事業を継続・成長させることはできません。チームのメンバーを正しい方向に導いていくリーダーシップは、企業の未来を左右するといっても過言ではないのです。

ここで明確にしておきたいのは、「リーダーシップとマネジメントは似て非なるものである」ということです。

マネジメントは、複雑な状況にうまく対応するための手法です。特に日本の産業の多くを占める製造業では、計画や予算管理、生産の品質、組織の秩序や一貫性の維持において、優秀なマネージャーの存在は欠かせません。

一方、リーダーシップの役割とは、「変化に対応する」のひと言に尽きます。ビジョンを描き、それを達成するための動機付けやメンバーのモチベーション維持を行い、常にチームを正しい方向に導いていく。このようなリーダーの資質は、常に目まぐるしい変化や競争の激化が起こり、大規模な改革が必要とされている昨今のビジネス環境において、その力を発揮します。

マネージャーは複雑さに対応し、リーダーは変化に対応する。それが、マネジメントとリーダーシップの概念の違いです。

日本企業は、高度なマネジメント手法を確立することで成長を遂げました。しかし、変化が激しいこれからの時代に必要なリーダーシップについてはまだまだ成長の余地があるというのが私の見解です。

©「OODA式リーダーシップ」アーロン・ズー著、秀和システム刊

©「OODA式リーダーシップ」アーロン・ズー著、秀和システム刊

これからの時代のリーダーに必要なのはOODA。PDCAとの違いとは?

リーダーシップに必要な「変化に対応する」という資質は、「柔軟性」や「スピード感」といった言葉に置き換えることができます。そして、これらの要素を含んだ画期的なフレームワークこそが、元アメリカ空軍大佐で戦闘機のパイロットだったジョン・ボイド氏が提唱した「OODAループ」(以下、OODA)です。

OODAは日本のビジネス界に浸透したPDCAと同じく、一周することで意思決定から行動までのプロセスがなされるものですが、PDCAの「計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)」とは各プロセスの内容が異なります。下記、各プロセスを簡単に説明します。

■観察(Observe)
現状を把握して必要な情報を集める。ここで注意してほしいのが、推察や判断は行わないということ。あくまでも客観的に物事を観察し、自分にとって不利な情報であっても事実として受け止める。

■判断(Orient)
収集した情報をベースに、これまでの傾向や過去の経験などから判断する。より多くの場数を踏んでいるリーダーほど、より迅速な判断ができるため、リーダーの経験値が発揮されるフェーズといえる。

■決定(Decide)
観察と判断をベースに具体的な行動を決定する。この決定こそがリーダーとしての能力が問われる。

■行動(Act)
最後に決定事項を行動に移す。行動することで何かしらの変化が起きる。ここで再び観察に戻り、起きた変化に対して仮説を検証する。この一連のプロセスを高速で繰り返すことで、不安定な環境下でも柔軟な対応ができる。

©「OODA式リーダーシップ」アーロン・ズー著、秀和システム刊
©「OODA式リーダーシップ」アーロン・ズー著、秀和システム刊

©「OODA式リーダーシップ」アーロン・ズー著、秀和システム刊

OODAとは、「その瞬間、どう動くのが最善か」という意思決定を優先するものであり、常に変化し続ける予測不能な状況に対して、常に最善手を打っていくことを目的としています。

一方、PDCAは安定した状況下でプロジェクトやチームを適切に管理し、品質や効率を改善していくことを目的としています。分かりやすく対比させるなら、安定した既存事業はPDCAを回し、緻密なマネジメントを行う「正策」に注力する。変化が激しい新規事業はOODAを高速回転させて、勝機を見抜くリーダーシップを発揮する「奇策」に集中する。それぞれ役割が異なるということです。

PDCAが大いに役立つツールであることは間違いありません。一方、PDCAのサイクルでは変化スピードに対応できないケースがあることも事実です。OODAはPDCAよりも環境変化に柔軟に対応でき、変化が激しい昨今のビジネスをハンドリングしていくリーダーにとって、必要不可欠な意思決定プロセスなのです。

少し話はそれますが、この「正策」と「奇策」の関係は、「商品・サービス」と「クリエイティビティ」の関係に近いと感じています。クリエイティブが生み出すワクワク感や「その手があったか!」という驚きは、昔からビジネスを動かす「奇策」として大いに力を発揮してきました。しかし、「商品がなければ、広告コピーは意味をなさない」のと同じで、どちらか片方だけあれば良いというものではありません。PDCAもOODAも役割が異なるもので、それぞれ力を発揮できるポイントで正しく活用することが重要なのです。

アーロン

OODAの速さの正体は「決定」プロセスにあり

OODAはなぜ高速回転できるのか?その“速さの正体”は意思決定プロセスの「決定」(Decide)にあります。「決定」の遅さは、昔から日本企業における課題の一つといわれています。一方、OODAにおいては「決定」というプロセスは暗黙的であり、わざわざ細かい手順を踏んでやるものではありません。

もし、あなたの目の前に車が突っ込んできたら、瞬時の「判断」で車を避ける「行動」を取りますよね?そこに「決定」というプロセスはありません。さもなければ、避けるという行動をする前に車にひかれてしまいます。このように、OODAにおいては「判断」が直接的に「行動」を統制することで、スピーディな意思決定プロセスを実現しているのです。

©「OODA式リーダーシップ」アーロン・ズー著、秀和システム刊

©「OODA式リーダーシップ」アーロン・ズー著、秀和システム刊

これを組織に適用させるために必要なのが、「権限委譲」です。信頼できるメンバーにある程度の裁量を与えることで、OODAのスピードは断然速くなります。

繰り返しになりますが、リーダーの仕事は「管理をすること」ではなく、「変化に対応しながらチームを正しい方向に導くこと」です。メンバーにその仕事のミッションとバリューを伝えた上で、一定の範囲内での行動は部下に任せる。そうすることで、現場レベルでの責任の範囲が明確になり、メンバーの仕事のモチベーションアップにもつながります。もちろん、仕事や責任を部下に丸投げするのではなく、最終責任者として、何かあればすぐ対応できるようにスタンバイしていくことも重要です。

OODA実践の鍵はミドル層!経営層を動かす「イシュー・セリング」とは?

OODAの起源はアメリカの軍事戦略であり、これを日本企業のビジネスに実装するためには、日本企業に適した方法が必要だと考えています。なぜなら、日本企業は欧米ほど人材の流動性が活発ではなく、年功序列や合議型の文化が根付いているからです。トップダウン型の強いリーダーよりも、複雑な社内環境の中でも的確に根回しや調整ができるリーダー兼マネージャーのほうが、日本の組織文化との相性は良いでしょう。

すなわち、OODAによる変革は経営層ではなく、ミドル層が鍵を握っているといえます。実際、現場の責任者、つまりミドル層が一番案件を左右する権限を持っています。そして、ミドル層にはさまざまな関係者とのコネクションがあり、新しいプロダクトやサービス、改善アイデアなどの情報が集まってくる。要するに、経営層は「課題を解決するための経営判断」は行いますが、「実際に何が課題なのかを判断する」のはミドル層の仕事なのです。

そして、問題を課題として経営層に認識してもらうためには、提案や根回し、協力者探しといったプロセスが必要になります。これは「イシュー・セリング」(Issue Selling)と呼ばれる概念で、日本でOODAを高速で回すためには避けて通れないプロセスです。拙著「OODA式リーダーシップ 世界が認めた最強ドクトリン」(秀和システム)では、イシュー・セリングを実行するための具体的なフレームワークを紹介しています。

不確実性が高い環境下で回すOODAや、そこから繰り広げられる「奇策」は、ビジネスのみならず、教育や伝統芸能、クイズ・ミステリーなどのエンターテインメントの世界でも活用されてきました。そこで本連載では、さまざまな業界の“OODAの実践者”たちとの対談を通じて、これからの時代に必要なリーダーシップを身に付けるためのヒントとOODAの魅力を発信していきます。

乞うご期待ください。

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