2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻してから半年が経った。この間にロシア人の歴史認識に変化が生じている。とくに興味深いのは、政治エリートと民衆の双方でエリツィン元大統領に対する評価が極めて否定的になっていることだ。
産経新聞の報道が現地の雰囲気をよく伝えている。
ロシアでボリス・エリツィン初代大統領(1931〜2007年)への批判的な論調が高まっている。エリツィン氏が決定的な役割を果たした1991年のソ連崩壊がウクライナを欧米に接近させる結果を招き、プーチン政権は侵攻に踏み切った──。ロシアの政治家や文化人らの間で、ソ連崩壊を諸悪の根源ととらえる見方が強まり、エリツィン批判となって表れているようだ。
露独立新聞によると、ロシア共産党の国会議員アナスタシア・ウダリツォワ氏は8月上旬、「エリツィン大統領期はわが国の歴史上、最も恐ろしい時代の一つだった」と述べ、エリツィン氏が主導したソ連崩壊は国家にマイナスの結果をもたらしたと非難した。
エリツィン氏は中西部スベルドロフスク州の出身で、ウダリツォワ氏は同州の州都エカテリンブルクにある非営利団体「エリツィンセンター」の閉鎖を求めた。エリツィン氏の名を冠した博物館や図書館から名前を外すことも提案し、他にも同調する議員が現れた。(8月14日「産経ニュース」)
ロシア人の内在的論理を知るためにいつも意見交換に応じてくれるのが、ロシアの政治学者のアレクサンドル・カザコフ氏だ。筆者は外務省の研修生として、1987年9月から88年5月までモスクワ国立大学で研修した。そのとき哲学部科学的無神論学科で机を並べて勉強したのがカザコフ氏だった。
65年生まれでラトビアのリガ出身のカザコフ氏は筆者より5歳年下だが、早熟で天才肌の学生だった。それから35年間、友達付き合いをしている。筆者が06年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『自壊する帝国』(新潮文庫)で主人公的役割を果たしているのがカザコフ氏だ。
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