2022年9月11日(日) 配信
旧ソ連大統領であったミハイル・ゴルバチョフ氏が8月30日に亡くなった(享年91歳)。1985年に旧ソ連トップの共産党書記長に就任し、ペレストロイカ(改革)やグラスノスチ(情報公開)を旗印に共産党の一党独裁体制の変革を大胆に試みた。帝政ロシア時代から続く支配体制の解体による政治・経済・社会の民主化をはかると共に、兵員削減や中距離核戦力廃棄や東欧諸国からのソ連軍の撤兵など軍国主義との決別にも踏み込んだ。
「新思考外交」を推進し、アフガニスタンからのソ連軍の完全撤退、ベルリンの壁崩壊を容認すると共に、89年12月にはブッシュ(父)米国大統領と会談し、東西冷戦終結を宣言。90年3月に初代ソ連大統領に就任し、10月には東西ドイツ統一を実現すると共に、ノーベル平和賞を受賞した。
91年4月には旧ソ連の最高首脳として初めて来日し、北方領土問題の存在を認めて、北方四島とのビザ無し交流に道筋をつけて日ソ関係の改善に貢献。しかし91年8月に保守派によるクーデターが発生し、12月に大統領辞任に追い込まれた。
旧ソ連のトップとして在任した約7年間の内に、東西冷戦終結や東西ドイツ統一などを実現させ、国際秩序の一大変革に大きな役割を果たした点は高く評価されるべきである。ゴルバチョフ氏は東西冷戦を第3次世界大戦とみなし、しかも勝者のいない大戦だったと評した。ソ連を中心にした東側の社会主義諸国だけでなく、米国を中心にした西側の資本主義諸国もやがて行き詰まるであろうと予測していた。
現代では中国やロシアなどの専制主義国と米国を中心とする自由主義国の対立が強まっており、新冷戦時代の様相を呈している。しかもウクライナ戦争に続いて、台湾有事が現実化しており、日本でも軍備増強が最重要課題になっている。コロナ禍の長期化で国際観光が大幅に縮小されているうえに、新冷戦が深刻化するならば、世界的に人的交流が停滞するために旅行業界の苦境が継続されることになる。
ゴルバチョフ氏は東西冷戦終結を実現して、平和創出に貢献し、国際交流の活発化をはかることによって国際観光の隆盛化を後押しした。世界で唯一の被爆国である日本は軍事力強化ではなく、文化力や観光力の強化によって平和創出に貢献すべきである。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。
「観光革命」地球規模の構造的変化(250) ゴルバチョフ氏の功績 - 旅行新聞新社
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