日本の株式市場では時価総額トップ企業群の顔ぶれが前世紀末からほとんど変わらず、変化が乏しい。新参者が続々と入れ替わってきた米国とは対照的だが、セクター(業種)別に見ると、市場全体とは異なる様相が浮かび上がってくる。(クレディ・スイス証券チーフ・インベストメント・オフィサー 松本聡一郎)
変化に乏しい日本のトップ企業群
様変わりした米国とは対照的
“A rolling stone gathers no moss”というイギリスのことわざは、「転石苔(こけ)を生ぜず」と訳され、日本でもよく使われている。「苔」は良いものの例えで、日本でも一つのことをじっくりと腰を据えて取り組むべきだという意味合いで使われていると、私は理解していた。
ところが米国では事情が異なるようで、ボストンの資産運用会社勤務時代に、同僚から「変化を恐れて、行動をしないと苔(つまり良くないものの意味)が生えてくるぞ」という意味で使っていると言われ、驚いたことがある。
確かに米国は変化に富んだ国で、新しい挑戦を歓迎する空気がある。会議でのプレゼンテーションでも発表者本人の独自のアイデアが求められ、オーソリティー(権威者)の言葉を引用して説明しようとすると、まったく聞いてもらえないのである。
その米国で、最も重要なイシューの一つに格差問題がある。この問題では、成功した人とそうでない人の資産格差が拡大していることよりも、格差が親から子どもに世代を超えて引き継がれ、結果として社会的身分が固定化され、変化の乏しい社会になってしまうことが、より大きな長期的問題だと考えられている。
2019年、米国の企業経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は、設立以来掲げてきた「株主第一主義」を見直し、株主に加え従業員や地域社会なども加えた幅広いステークホルダーの利益を重視する政策を発表した。この発表の際、当団体の会長は「アメリカンドリーム(誰にでも、挑戦し成功を得るチャンスがあること)」が揺らいでいることに懸念を表明した。
チャレンジの機会が失われ、社会の変化が抑え込まれ、経済の成長に与えるリスクの大きさを懸念したことが、米経済の根幹をなす「資本主義の形」を大きく見直すきっかけになったのである。
このような歴史観を踏まえつつ、次はマーケットに分析の目線を移してみよう。時価総額トップ企業群はすなわち、その国の株式市場(経済)をリードする企業群といえる。今世紀以降、米国ではトップ企業群のほとんどすべてが入れ替わっている。新しいトップ企業群が、米国経済の成長を大きくリードしてきたのだ。
一方、日本では大半の企業が前世紀末から変わらず残っており、変化が見られない。この期間の米国と日本の経済成長や株式市場のパフォーマンスを比べると、米国の圧勝である。これはトップ企業群に君臨し続ける日本企業が問題なのでは、まったくない。新しいビジネスに挑戦し、成長をもたらす企業群を生み出せなかった日本の社会構造に問題があったと考えるべきだろう。
だが、日本でトップ企業群の入れ替わりはあったのかをセクター(業種)別に見ると、異なる様相も浮かび上がってくる。
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