申し遅れましたが、私はintervoice代表の柳田有一と申します。宣伝会議の「これからの子育て世代をターゲットにしたファミリー向けマーケティング講座」で講師をしています。
働き方の変化、子どもたちの保育、学び方、遊び方の変化、家族での移動や余暇の変化、そして、その変化によって生じた、生活空間、時間の使い方、家族の役割分担、暮らし方の変化。こうした多くの可変ファクターを抱えていたがために、いち早くさまざまな分野で「新しい兆し」を多く生み出している世代、それが今の子育て世代ではないでしょうか。
本コラム「コロナ禍は子育て世代の何を変えたのか?~子育て世代に見る、新しい顧客行動の出現とアフターコロナのブランドマーケティング~」では、全3回にわたり、子育て世代に注目することで、今後、どのような意識や行動が、私たちの暮らしに現れるようになってくるのか、その変化の予測について考察を深めたいと思います。
家族との物理的距離・精神的距離の変化がもたらしたこと
コロナ禍がもたらした大きな変化の一つは、「距離」の変化だと考えます。その変化をもたらしている大きな要因が、急速なテレワーク(在宅勤務)の導入です。パーソル総合研究所の調査結果によれば、従業員10人以上の企業に勤める正社員の昨年11月時点でのテレワーク実施率は24.7%。この段階で、4人に1人がテレワークを実施していることになります。働き方の一つとして在宅勤務が一般化しつつあることで、特に子育て世代の、家族との物理的・精神的距離、他者との物理的・精神的距離が大きく変化しつつあると考えます。
こと子育て世代に着目すると、家族との物理的・精神的距離について、その距離が近くなったという人が大半ではないでしょうか。在宅勤務に加え、ステイホームが推奨されたことで、家族との物理的距離が近くなった=家族が一緒の空間にいることが増えたという家庭が多く存在します。一方で、家族以外の人との(特に物理的)距離は遠くなった人が多く、家族だけが唯一の「リアルにコミュニケーションできる身近な存在」になった人が多数見受けられます。今年の1月に弊社が行った子育て世代へのインタビューでは、「家族とのコミュニケーションが癒しになっている」「家族でどこかに出かける機会を大切にしたい」という声が挙がっており、家族との物理的・精神的距離の縮まりが、子育て世代の「家族とのリアルな体験をこれまで以上に重視する」姿勢を生み出しているのではないかと考えます。
家族以外の他者との距離のとり方で起こった変化
テレワーク、ソーシャルディスタンス、ステイホームといった言葉の浸透は、家族以外の他者との物理的距離が広がったことを意味しています。特に子育て世代は、家族との物理的・精神的距離が縮まったこともあり、その反作用として、より他者との物理的距離の広がりを大きなものとして捉えているように見受けられます。この距離の隔たりを解消するために、いかに「他者との精神的距離を縮めるか」、そのソリューションとして、インターネットによる物理的距離の超越=ZoomやLINEなどのビデオ通話、Facebook、Twitter、ClubhouseといったSNSが、子育て世代のより日用的なコミュニケーションツールとして使われるようになったのではないでしょうか。一方で、今後、インターネットを介したコミュニケーションが、より“違和感のない=物理的距離を感じさせない”ものとしての進化することで、逆に「物理的距離が近いこと=リアルな体験」の持つ価値・意味が大きく変わる可能性もあるのではないかと思います。
子育て世代を中心に起こる「時間の再分配」
「距離」に続き、2つ目の着眼点は、子育て世代の「時間」の変化です。先に述べたような在宅勤務者の増加(通勤時間の消滅)に加え、残業時間の抑制、仕事仲間との会食時間の減少、余暇時間の変化を起因として、子育て世代の多くが、「暮らしにおける“時間の再配分”」を行っているのではないでしょうか。
特に、通勤時間、残業時間、会食時間といった、「働くこと」に関わる時間が減少したことにより、「暮らしの充実」に時間を再配分したいという子育て層が多く存在するように見受けられます。先にも挙げた子育て世代へのインタビューでは、「コロナで自由な時間が増えたので、せっかくならその時間を豊かな時間にしたい」「コロナで浮いた時間を、暮らしを充実させることに使っている」という意見が散見されています。こうした意識の高まりを見ると、コロナ禍を機に、子育て世代の「時間を豊かにする」モチベーションが大きくなっていることがわかり、商品・サービスのコンセプトをこの文脈で解釈することで、商品・サービスに新たなオケージョンが生まれるチャンスがあると考えます。
これからの子育て層へのアプローチに必要なこと
これまで述べてきたように、コロナ禍は多くの人の「距離」と「時間」に大きな変化をもたらしています。なかでも子育て世代は、家族や他者との物理的・心理的距離の変化、暮らしにおける時間の再配分をきっかけに、「家族というユニット」の意味すらも変容させつつあると私は考えます。これまで「家族」というユニットは、「仕事」と対をなす存在として、いわば「プライベート」的に捉えられていたように思います。ところが、コロナ禍による変化のさなか「家族」というユニットは、「仕事」の上位概念、「暮らし」に近い意味合いで捉えられるようになってきたのではないでしょうか。まず、「家族のあり方」「暮らしのあり方」があり、その上で「働き方」「住まい方」を考える、そんな意識変革が行われつつあるように思います。
こうした「家族本位の時代」において、多くの商品やサービスは、もう一度、その意味を問い直さねばなりません。アフターコロナの商品・サービス開発、子育て層へのアプローチにおいて重要なのは、「これからの家族の暮らしに、この商品やサービスはどのような意味を持つのか」という視点です。言い換えれば、商品・サービスの「意味の再設計・再構築」ということであり、それを行わないかぎり、既存の商品やサービスは、子育て世代に受容されることが難しくなるように思います。「意味の再設計・再構築」において念頭に置くべきは、「家族とのリアルな体験」「時間を豊かにするという発想原点」であり、そのフィルターを通じて、今の商品やサービスを見直してみることが、これからのマーケティングに不可欠な要素になるのではないでしょうか。
こうした、子育て世代の変化への考察を踏まえ、次回のコラムは、家族本位の時代における「家族」とはなにか、共時性・共体験という切り口から、より深く考察していきたいと思います。また、家族を「リアルな共体験の最小ユニット」として捉え、これからの子育て世代に受け容れられるための具体的な「商品・サービスの意味の再設計・再構築」の方法について、お話しできればと思います。
柳田 有一
intervoice代表
マーケティング・ディレクター/ファシリテーター
広告会社勤務を経て、2006年に電通入社。2020年末に独立し、intervoiceを設立。国内大手メーカー各社のマーケティング業務、ブランディング作業に数多く携わり、戦略プランニングを担当したブランドは100を超える。その過程で、多くのリサーチ業務、ワークセッション設計に従事し、「対話」と「インタビュー」を軸にしたオリジナルのブランド育成プログラムを開発。主な担当ブランドとして、「味の素 CookDo」「キリン 氷結」「アサヒ飲料 WONDA」「花王 Segreta」「FUJIFILM ASTALIFT」「SUBARU LEVORG」。担当した「味の素 CookDo」は2011年に、「キリン 氷結」は2017年に、それぞれ過去最高売上を達成。2016年には「電通パパラボ」初期メンバーとしてその設立に参画、子育て、暮らし方、住まい方に関心の高い「フラット夫婦」の「話し合い消費」、「これからの子育て世代の“時間消費における質的変化”」を提唱する。「売上拡大に直結するマーケティング戦略の構築」を、戦略プランニング、ブランド育成の根幹に置く。2019年、都内から長野県軽井沢町に住まいを移し、以降、東京と軽井沢の2拠点を中心に活動する。
コロナ禍がもたらした、子育て世代3つの変化 - AdverTimes(アドタイ)
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