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Saturday, December 16, 2023

死にゆく脳で発生する劇的な変化「死の波」とは? - GIGAZINE(ギガジン)


無酸素状態に陥ったラットの脳波を解析する研究により、死に向かいつつある脳で起きる臨死体験の実態や、それに続く「死の波」と呼ばれるダイナミックなプロセスの詳細が明らかになったと発表されました。この研究は、脳波がフラットになることが脳機能の不可逆な停止の決定的なサインだとする現代医療の常識に疑問を投げかけるものであると位置づけられています。

Laminar organization of neocortical activities during systemic anoxia - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0969996123003613

Brain dynamics of the "wave of death" highlig | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1010894

医療の発達により、生から死への転換はある瞬間の出来事ではなくゆっくりと移行する連続的なプロセスであり、時には逆転することもある複雑な現象だということがわかってきています。

フランスにあるソルボンヌ大学パリ脳研究所の研究者らは以前の研究で、無酸素状態が長時間続くと、脳の活動が連鎖的な反応であるカスケード変化を起こすことを示していました。


まず、呼吸や脈拍の停止などによって酸素が届かなくなった脳では、エネルギー源であるATPが急速に枯渇し、これによってニューロンの電気的なバランスが崩壊して、神経伝達物質であるグルタミン酸が大量に放出されます。

「最初は神経回路がシャットダウンしているように見えますが、その後脳の活動が急増し、特にガンマ波とベータ波が増加します。これらの波は意識的な経験と関連しており、これが心肺停止から生還した人が語る臨死体験なのではないかといわれています」と、パリ脳研究所の神経学者であるセヴリーヌ ・マオン氏は話します。


その後、ニューロンの活動は徐々に低下し、脳波がフラットになって完全な電気的沈黙(electrical silence)状態に至ります。しかし、この静寂は専門家の間で「死の波」として知られる大きな波によってすぐに中断され、脳の機能と構造に変化が訪れます。

論文の筆頭著者であるパリ脳研究所のアントワーヌ ・カルトン=ルクレール氏は、「無酸素性脱分極と呼ばれるこの重大な出来事は、大脳皮質全体にニューロンの死を引き起こします。つまり、死の間際に美しい声で鳴くという白鳥の歌のような、脳活動の停止への移行を示す真の指標といえます」と説明しました。


死に直面した人の蘇生や脳の機能の維持には、死の波の性質を理解することが重要ですが、これまでは「死の波」が大脳皮質のどこで起きるのかや、発生した死の波が脳にどのように広がっていくのかはわかっていませんでした。

そこでパリ脳研究所の研究チームは、ラットを用いた研究を行って、脳のさまざまな層の電位とニューロンの電気活動を記録しました。

そして、無酸素性脱分極が起きる前と起きている最中の脳活動を比較したところ、「死の波」が大脳新皮質の第5層に位置する錐体ニューロンという神経細胞から発生し、それが脳の表面や内側の白質に向かって広がっていくことがわかりました。この実験はラットによるものですが、研究者らは人間でも同じ事が起きていると考えています。

以下は、実験中のラットの生理反応パラメーターをモニタリングしたものです。酸素供給の中断(Vent.off)により酸素欠乏(asphyxia)になると、程なくして脳の活動(ECoG)が低下しますが、無酸素性脱分極の波(WAD)、つまり「死の波」が発生した際に酸素の供給を再開することで、無酸素性脱分極の後の再分極(WpAR)が起きています。


この知見は、死の波が発生した大脳皮質の深層が酸素の欠乏に対して最も弱いことを示唆しているとのこと。その理由としては、第5層の錐体ニューロンの活動には多くのエネルギーが必要なことが考えられます。また、研究者らがラットの脳に再び酸素を供給すると、脳細胞がATPを補充し、ニューロンの再分極とシナプス活動の回復につながることも確かめられました。

研究チームの責任者であるステファン・シャルピエ教授は「生理学的見地からすると、死は時間をかけて進行するものであり、生と厳密に切り離すことは不可能です。また、脳波がフラットになったからといって、必ずしも脳機能の決定的な停止を意味しないこともわかっています。今後は、これらの機能が回復するための条件を正確に解明し、心不全や肺不全になった人の蘇生をサポートする神経保護薬の開発が必要です」と述べました。

なお、今回の研究に使用されたラットは解剖のため安楽死させられましたが、論文には「実験はフランス研究省および倫理委員会の承認を受け、欧州連合のガイドラインに従って実施しました。各実験で使用する動物の数およびストレスを最小限に抑えるためにあらゆる予防措置が講じられ、すべての実験手順は動物実験に関するガイドラインに準拠して行われました」と記されています。

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