相場に対し逆張り傾向が強く、これまで日本株市場の積極的な買い手とは言い難かった個人投資家。だが、2024年1月に始まる新たな少額投資非課税制度(NISA)をきっかけに、外国人投資家頼みだった日本株の需給構造が大きく変わる可能性が市場で指摘され始めている。
新型コロナ禍以降、日本の個人投資家は米国など外国株式を積極的に買う一方、日本株への投資は盛り上がりを欠いた。 投資信託協会によると、21年度から今年10月までで外国株投信への純資金流入が約9兆9000億円だったのに対し、国内株投信は約3兆7000億円にとどまる。このため、NISAのリニューアルで非課税投資枠が拡充される来年1月以降も、個人マネーの大半は引き続き外国株投信に向かうとの見方が多かった。
ところが、8月以降は日本株投信への資金流入が加速。外国株投信を上回るペースとなっており、市場関係者の一部では個人の投資スタンスに変化が出始めたと受け止められている。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の中沢翔ストラテジストも「家計の株式投資の変化の兆しかもしれない」と考える一人だ。
中沢氏は賃金と物価上昇の好循環が起こる可能性に照らし、「現預金が目減りすることへの警戒感が表れているのではないか」と分析。日本企業が資本効率の改善に取り組む動きとも重なり、「日本企業のパフォーマンスへの見方が変わってきている可能性もある。持続性に注目したい」と言う。
新型NISAについては、個人の証券投資意欲を全体的に高めるのではないかとの期待がある。日本証券業協会によると、個人の証券口座数は9月末時点で3399万口座と前年比で6.9%増加。外国株の中でも日本の2倍を超す高パフォーマンスの米国株への投資人気が高かった。米S&P500種株価指数が21年3月以降に円ベースで53%上げたのに対し、同期間の東証株価指数(TOPIX)の上昇率は20%だった。
SMBC日興証券の安田光チーフ株式ストラテジストは「昨今の米国株ブーム、円安の影響、歴然としたパフォーマンス格差が保有状況に表れている」と指摘した。
ただし、為替については利上げの打ち止め感が出ている欧米に対し、 日本銀行はマイナス金利解除の可能性を探っており、国内外金利差の縮小で来年は円高方向に振れるとの予測も出て、外国株よりも日本株が選好される可能性がある。デフレ脱却や東京証券取引所が上場企業に対し求める資本効率改善への期待感も続きそうだ。
SMBC日興証では新型NISA経由の投資が政府目標に沿った形で増えた場合、現在の同証NISA顧客の保有状況に基づき国内株33%、株式投信9%で試算すると、日本株市場に年間2兆円の買い需要が発生するとみている。
日本株の新NISA効果、年間2兆円の資金流入の公算:SMBC日興
個人は近年、日本株市場の売り越し主体となるケースが多かった。また、自社株買いなどを行う事業法人を除けば、国内には安定した買い手となる投資部門が存在せず、おおむね外国人の売買動向に左右され続けてきた経緯がある。
個人の投資資金規模は外国人に比べ圧倒的に小さいが、三菱UFJ信託銀行の芳賀沼千里チーフストラテジストはこれまでコンスタントな売り手だった個人の姿勢に変化が見られた場合、その影響は大きいと話す。
芳賀沼氏は「今後個人は資産形成の重要性やインフレの可能性を認識し、金融資産を日本株に振り向ける可能性が高い」と予想。これまでも株価の調整局面で買い越す傾向は見られたが、個人の存在が今後大きくなれば、「日本株は世界的な株価調整局面でも相対的に下落率が小さくなるだろう」とみている。
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