原材料価格の高騰や急激な円安の進行の影響による物価上昇。家計の負担が増加すれば、消費者の購買行動にも影響する。本稿では、野村総合研究所の松下東子氏がデータを元に消費者意識の変化を読み解き、小売り・メーカーに求められる訴求ポイントを解説する。
※本記事は、2022年11月1日発売の『販促会議』2022年12月号 の転載記事です。
野村総合研究所
コンサルティング事業本部
マーケティングサイエンスコンサルティング部
プリンシパル
松下東子氏
「値上げの春夏」に留まらず、「値上げの秋冬」が到来しています。10月にも約6700品目が値上げされており、今年に入ってからの値上げ品目は累計で2万を超えました。みずほリサーチ&テクノロジーズは、1ドル=145円の円安が9月以降も続いた場合、2人以上の世帯で年間8万円超の負担増と試算しています。雇用保険料や後期高齢者の医療費負担の引き上げなどの制度変更もあり、家計の支出増は止まりません。しかし、こうした支出の増加に賃上げは追いついておらず、実質賃金指数は2022年8月時点で5カ月連続のマイナスを見せており、家計の圧迫は増す一方です。
消費意識は萎縮も譲れない「価値」がある
NRIのシングルソースパネルでは、関東20~69歳の消費者に対し、月次で消費意識を調査しています。まず、2021年7~9月平均と2022年7~9月平均を比べてみると、全体的にスコアダウンしています。「〇〇なものを買う」という各選択肢に対し、そもそも「買わない」として選ばない人が増えています。
また、主要な項目の中でも減少が小さい項目(相対的に重視度はアップ)と、減少が大きい項目(相対的に重視度はダウン)に分かれます。減少が小さい項目は、価格高騰下で取られる消費行動や、消費が委縮する中でも譲れない価値を表し、減少が大きい項目は、家計の負担増に伴い諦めてしまう価値を表すと言えます。
図表1を見ると、価格高騰下に真っ先に諦められがちな価値は、流行やアフターサービス、デザイン、ブランド・メーカーなど、商品・サービスの「機能」に関わりのない付加価値です。次に、減少率が中程度、できれば諦めたくない価値としては、ユーザー評価、利便性、品質、国産品など、「機能」に関わるものが入ってきます。ブランドロイヤリティについては、有名メーカーやブランドについては諦められても、普段自分が価値を認めて使っているブランドからスイッチすることはあまりしたくない、という消費者意識がうかがえます。
最後に、全体の消費意識が下がる中でも横ばいから微増となった価値では、安全性、こだわり、長く使えること、などがあります。また、行動としては安価品・PBもこのグループに入るのですが、むしろそれよりも情報収集やコスパなどの方が減少度が小さいこと、さらに、「こだわり」が譲れない価値の上位に入っていることなどを考え合わせると、「しっかりと情報収集・検討しながら、より自分の満足度の高い消費を選択的に行う」傾向が強くなっているようです。
図表1消費意識の変化(2021年7~9月⇔2022年7~9月、回答率10%以上の項目を抜粋)
「価値」を諦めるぐらいなら買わない傾向が強くなる
このように、諸物価高騰に対し、消費者は「買わない」「安いものを買う」「しっかり調べて満足度の高いものを買う」などで対処しているわけですが、中でも3番目の選択肢「しっかり調べて満足度の高いものを買う(=価値は落とさない)」というコスパ意識が大切なようです。
―本記事の続きは、11月1日発売の『販促会議』2022年12月号 で読むことができます。
月刊『販促会議』12月号
■目次
【巻頭特集】
値引き以外で「買いたい」はつくれる?
「お得感」を演出
事例&アイデア
■OPINION
お得だけでは反応しない。コスパなのかタイパなのか?
生活者の「買いたい!」の正体とは
田中みのる(ライズマーケティングオフィス)
値引きの代わりだけでないポイントサービス
値段以上のお得感を演出する方法
岡田祐子(エムズコミュニケイト)
値上げラッシュの年末商戦に打ち勝つ
ECは情報量を増やし顧客の理解度を高める
竹内謙礼(いろは)
データから読み解く
諸物価上昇に対する消費行動の変化
松下東子(野村総合研究所)
■CASE
ゲーム性の高い企画で若年層の心をつかむ
最大8割引で話題を呼んだ「サイコロきっぷ」
JR西日本
包装を減らしたばら売り・量り売りで
環境配慮とユーザーメリットの双方を実現する
MARKET LAGOICE
「食品ロス削減」で普段の買い物をエシカルに
価格だけじゃない「TABETE」のお得感
コークッキング
■TOPICS
お得感を演出する事例を紹介!
メガマックス/COFFEE MAFIA/
斗々屋(ととや) 京都本店
■OPINION
「買う」「買わない」は何で決まる?
消費者の意思決定を理解して
効果的なプロモーション展開へ
竹村和久(早稲田大学意思決定研究所)
■TOPICS
AdverTimes. Days
2022 Autumn
OMO強化によって生まれる、
ポーラ独自の体験価値
ポーラ
ブランドの好意度と純粋想起度を向上させる
アース製薬流SNS活用術とは
アース製薬
マーケティング推進には
システム部門との連携がキーとなる
ビックカメラ
「ユーザーへの深い理解」と「一貫したパーパス」
バイトルが効果的な施策を打てた秘訣とは
ディップ
【特集2】
新しい顧客接点に注目が集まる!
リテールメディアの
最新活用術
■OPINION
なぜ今、リテールメディアが
注目されるのか
稲森 学(アドインテ)
先端事例に学ぶ
米国のリテールメディア事情
内山英俊(unerry)
広告プラットフォーマーから見た
リテールメディア
神武秀一郎(Criteo)
■INTERVIEW
2023年度中に全店舗へ拡大
ファミリーマートのリテールメディアへの取り組み
ゲート・ワン
商圏に特化して高い成果
キリン堂のリテールメディアへの取り組み
キリン堂
シリーズ 販促の基本
バーチャルマーケットにみる
メタバース販促
新 清士(HIKKY)
■METHOD
(秘)公開 これがプロの企画書だ!
日本コカ・コーラ
「#コークで乾杯 キャンペーン」
の企画書
菊池雄也(電通プロモーションプラス)
データから読み解く 諸物価上昇に対する消費行動の変化 - AdverTimes.
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