東京五輪の開会式では、米プロバスケットボールNBAの 八村塁選手が日本選手団の男子旗手を務め、テニス4大大会で4勝した大坂なおみ選手が聖火リレーの最終走者として聖火台に点火した。2人とも異なる人種の両親の間に生まれた世界的アスリートだ。
「 多様性と調和」を基本コンセプトとして掲げる大会で、八村、大坂両選手は新しい日本の顔としてスポットライトを浴びたが、世界で最も人種的に均質的な国の一つである日本が変化を受け入れるには、まだ道のりが遠いことを思い起こさせる契機にもなった。
外国生まれの住民や両親の人種が異なる日本国籍保有者はこの数年間で徐々に増加しているが、五輪大会は日本人のアイデンティティーとその進化を振り返る機会となっている。人種が単一ではないアスリートが日本代表として活躍し、メダルを獲得する選手も出ている。
五輪男子テニスの ダニエル太郎選手は7月31日のインタビューで、日本が「多様性の推進をうまく進めてきたと思う」と述べながらも、過去1年間にこの分野での日本政府の至らない点の一部が五輪を機に浮き彫りになったとも指摘した。
日本人の母と米国人の父の間に生まれたダニエル選手は、自身のバックグラウンドを理由に、周りの不寛容に悩まされたアスリートの一人で、子供時代にからかわれた経験もある。
「日本に住んでいて、銃を持っているかなどと聞かれ、そのようにからかわれたことはショッキングだった」と振り返る同選手は、適合するために自身の振る舞いを変えるほうが容易だったと認めながらも、同様のバックグラウンドを持つ将来の世代にとって、そのような方法は答えにならないとも理解していると話した。
反マイノリティー感情も
人口の減少と高齢化に対応するため、改正出入国管理法などを通じ、日本政府は外国人労働者の受け入れを増やそうとしている。2020年末時点で人口の約2%が外国籍だ。
日本国内の反移民・反マイノリティー感情は表面的には気づきにくいかもしれないが、現実に存在し、よりあからさまに現われる時もある。大坂選手がシングルス3回戦で敗退した後、ソーシャルメディア上では、同選手には日本を代表する資格がないなど多くの批判の書き込みが見られた。
奈良女子大学の石坂友司准教授(スポーツ社会学)は、「これまで日本の人たちはダブルといわれる人たち、移民で国籍を変えた人に対してあまり歓迎してこなかった」歴史があると指摘。それでも大坂選手が聖火台への点火者に選ばれたことは、今までそういう選択をできなかった点を踏まえれば、「多様性というのはどういうことなのかという、それすら考えてこなかった日本にとっては大きい一歩だと思う」と話した。
八村選手も、子供時代には他人との違いを理由に常に隠れようとしている自分がいたが、スポーツを通じて自身の進む道を見つけたと 語っている。日本の男子バスケットボールチームが同じグループのスペインやアルゼンチンなどの強豪に勝つと期待している人はほとんどいないため、同選手へのプレッシャーは大坂選手ほどは強くなかった。
両親の人種が異なるアスリートが日本で受け入れられた例もある。2004年アテネ大会の陸上男子ハンマー投げで金メダルを獲得し、ヒーローとなった 室伏広治スポーツ庁長官は父親が日本人、母親がルーマニア人だ。
7月29日に男子柔道100キロ級で金メダルを獲得した東京出身の ウルフ・アロン選手は母親が日本人、父親が米国人。決勝戦で勝利した後に記者団に対し、「東京の下町で日本人として育ってきたので、そこまでそういう部分を考えてやってきたわけではない」とした上で、「日本代表として金メダルを取ったということがまず一番だ」と語った。
持続的な変化の期待も
あと1週間で閉幕する東京五輪が、多様性促進の大会になるとの願いがどの程度かなうのかはまだ分からない。
東京五輪・パラリンピック組織委員会は大会前に相次ぐスキャンダルに見舞われた。開幕の数カ月前に女性蔑視とも受け取れる発言で森喜朗氏が会長を 辞任。開幕の直前には開会式の楽曲制作を担当していた小山田圭吾氏が学生時代に障害のある生徒らに対し、いじめを行っていたことを巡り辞任した。
それでもテニスのダニエル選手は、五輪が人々の態度に持続的な変化をもたらす機会になると期待している。「最終的には、社会が前進するのに何が必要か考える上で良い機会になるだろう」と語った。
原題: Olympic Diversity Push Highlights Japan’s Struggles With Change(抜粋)
東京五輪契機とする多様性の推進、変化に苦闘する日本を浮き彫りに - ブルームバーグ
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